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ばっちゃ
  • それは、2002年08月10日。社会人になり4ヶ月目の出来事だった。


  • 「お客さん、終点ですよ~」
  • そうさ俺は寝過ごしたさ。そんなにでかい声で起こすなよ。んでココはどこ?
    耳慣れた車掌の言葉とは裏腹に見慣れぬ景色・・・イヤな予感。

    人生はいくつもの「IF~もしも~」からなりたっている。
    かの有名なグラサンの言葉である。

    もし、あの時、右の道ではなく、左の道を通っていたら・・・
    もし、あの時、A高校ではなく、B高校に受かっていれば・・・
    もし、あの時、ローラ姫ではなく、幼なじみのビアンカと結婚していれば・・・

    そして、今回の主人公である私の「もしも」は
    「もし、あの時、東海道線ではなくて、横須賀線に乗っていればなぁ」
    である。
  • 横須賀線で終点まで寝過ごした場合、損害は少ない。本来降りるべき駅のたった一つ先。
    タクシー代にして、1500円程度ですむ。
    ところが、私の乗った東海道線の終点は「国府津駅」だった。本来乗り換えるべき大船駅から11駅も先だ。
    東海道線は山手線ほど駅の間隔は短くない。それは偉大なる寝過ごしだった。

    時計は0:30を回っていた。ホームで途方にくれる私が聞いたアナウンスは、
    「本日ののぼり電車は<すべて>終了しました。」
    こころもち、エコーがかかっていたようにも錯覚した。

    さて、どうする俺。
  • 国府津駅から出ると、待ってましたとばかりにタクシーがスタンバイしている。
    そうやって彼らは、寝過ごし一族の財布から札束を毟り取るのだ。
    昔、幼稚園の先生が言っていた。「弱い人をいじめちゃいけません。」

    そうだ、この人たちは悪い人だ。こんないじめっ子にカモられてたまるか!

    っていうか、まともにタクシーに乗ったら2~3万はかかる距離だ。

    とりあえず、海沿いの道を歩くことにした。

    看板には「平塚 14Km」
    これだ!平塚だ。ここまで歩けばカプセルホテルくらいはあるに違いない。
    いける!俺、いけるよ!!(・・・ただし、14キロ歩けばね)

    ルッタタ・・・足取りも軽く国道一号線をひたすら上っていく。
    交通量が多い道の割にはコンビニひとつありゃしねぇ。
    テクテク・・・しばらく歩く。すると、「平塚 8Km」まだ、40分くらいしか歩いてねぇっつうの。
    意外にハイペースじゃん。かなりハイペースじゃん。もう半分近いじゃん。
    やっと見つけたコンビニでタバコを買って、余裕の一服。

    しかし、この勢いはいつまでも続くわけじゃない。

    テクテクテク・・・もう、ずいぶん歩いた。感だと、あと3Kmくらいだ。
  • 俺の横をポリスカーが徐行で通り過ぎる。
    ・・・ん?俺、警戒されてる?そりゃそうだ。電車もバスも終わった時間に、こんな何も無いところを歩いているんだもの。
    ちなみに、ネクタイをとり、ワイシャツも第3ボタンまではずしている。健全なサラリーマン姿じゃない。
    人生初のカプセルホテルを体験する前に、人生初の職務質問!?
    ・・・いや、まてよ。これはオイシイんじゃないか?
    「職務質問」というタイトルで日記が書ける。そして何より平塚あたりまで強制送迎してもらえるんじゃないのか?
    いや、この際、宿泊場所が大磯警察署でも構わない。
    精一杯あやしい顔つきで歩いてやれ!そして、職質だ!カモン、ポリス。

    ・・・そんなに物事はうまくいかないさ。

    「湘南の治安体勢もたいしたことねぇなぁ」とつぶやきつつ更に歩く。

  • テレテレテレ・・・もう限界。と、不意に看板。
    「平塚 6km」
    え?まだ2Kmしか歩いてないの?
    精神崩壊。いいかげん、タクシーに乗ろう・・・

    あれ?この家並み、マイホームタウン横須賀じゃねぇ?・・・という妄想を数回したころに、ついにオアシス。
  • [???] 「なに?終電乗り過ごしたの?」
  • その的確なコメントが、彼の第一声だった。
    ランニング、短パン、金のネックレス、自販機の前、小銭・・・教科書どおりの「近所のおっさん」登場である。

    俺 「いやあ、国府津から歩いてきたんっすよ。」
  • [近所のおっさん風] 「んなわけ、ねえだろ」
  • いきなり否定ですか?本当なんだってば・・・
  • [近所のおっさん風] おっさん 「で、家はどこなの?東海道線で乗り過ごしたんだ? この辺?」
  • 俺 「横須賀っす」
  • [近所のおっさん風] おっさん 「んなわけ、ねえだろう」
  • だから、本当なんだってば!そう言うイレギュラーな乗り過ごしもあるの!!
  • [近所のおっさん風] おっさん 「横須賀なら俺もよく行くよ。」
  • こんな地で横須賀話勃発。世間は狭いねえ。
    そんなこんなでしばらく立ち話の後、おっさんが近くのタクシー会社を紹介してくれた。

    数分後、無線で呼び出されたタクシーが到着。
    本当はもうあがるところだったらしいが、特別に平塚まで走らせてくれる事になった。
    ありがてぇ。
    運ちゃんの初めのひと言。
  • [運ちゃん] 「終電乗り過ごしたの?」
  • ここの人たちは、超能力者ですか?
    ここから、「VS 近所のおっさん」とほぼ同じトーク。
  • [運ちゃん] 「横須賀? ねぇ衣笠ってしってる?」
  • 俺 「めちゃめちゃ近所です。」

    世間は狭い・・・て言うか、狭すぎる。

  • [運ちゃん] 「梅津っていう知り合いが住んでいるんだよねぇ。」
  • 俺 「道であったらよろしく伝えておきます。」

    それから、このおっちゃんの身の上話を聞くことになる。
    昔は藤沢で会社員をしていたものの、カメラの道を目指して、退社。そしてタクシーの運転手。
    友達の梅津さんとは学生時代の親友で、彼はイラストレーターの道に進む。そして、今でも現役でがんばっているのだそうだ。
  • タクシーはほどなくして、平塚駅。
    タクシーに乗って正解。だって、あのままだったら、2000円分歩くところだったもの。

    平塚で早々とカプセルホテルをゲット。
    時間は2:15
  • しかし、こんな夜中にいろいろな事があった。

    登場人物。
     絶望を告げた終電の車掌。
     恨めしく見えたタクシー運転手(悪)
     バカに丁寧なセブンイレブンの店員。
     職務質問をしてくれなかった警察官。
     横須賀をよく知る「近所のおっさん」
     身の上話のタクシー運転手(善)

    乗り過ごすことが無ければ絶対に出会わなかった人たち。

    「世間は狭い」と人は言うけれど、
    そう思うのは、「人間と人間のつながり」が、案外複雑で印象深いからなのかもしれない。
懲罰 拍手は下で 演劇集団キャラメルボックスが来たっ! この人のいちらん